業種:医療業界

病院経営では安定した収益を維持することが課題です。収入の向上には限度があるため、病院ではコスト削減を通して収支をプラスにする施策が重要です。この記事では病院でコスト削減をするためのノウハウをご紹介します。

病院のコスト削減が重要視されている理由

病院の経営では収入を増やすことよりもコスト削減が重要視されています。コストを減らす必要性が説かれている理由をまずは紹介します。

病院の収入の減少

病院では保険診療に該当する診察や治療を通して医療サービスを提供することで受け取れる診療報酬が主な収入です。そのため、収支のバランスを考えて、コスト削減をせざるを得ない状況が生まれています。診療報酬改定によって加算を受けられる条件が変化しており、病院では改定の度に対応策を検討しなければなりません。対応が遅れると収入の減少につながります。

また、近年では新型コロナウイルスの感染拡大による影響も受けて、病床稼働率が低下しています。2019年度には国立大学病院の平均病床稼働率は84.6%でしたが、2022年には5.5%低下して79.1%になっています。収入源になる入院患者の減少は病院の経営に大きな打撃を与えています。

参照:病床稼働率|群馬大学医学部附属病院
https://hospital.med.gunma-u.ac.jp/1_web/wp-content/uploads/2023/11/6-Bed-occupancy-ate_R051127.pdf

必要経費は増加傾向

病院でコスト削減が重要視されているのは必要経費が増加する傾向があるからです。物価高の影響によって人件費は上げざるを得ない状況があります。また、2019年から消費税が10%に引き上げられ、医療に必要な医薬品や医療機器などの仕入れ費用も高くなりました。分析業務などの一部の業務は外部委託をしている病院が多いため、人件費や消費税の増加によって委託費の負担も大きくなっています。

そして、増税から間もなくして新型コロナウイルスの感染が拡大し、各地で医療従事者の退職が相次ぎました。現場で医療を提供するために必要な人材を採用するために追加でコストをかけなければならず、病院の必要経費の負担は大きくなっています。

病院の種類別のコスト比率

病院では種類によってコストの比率が異なります。ここでは独立行政法人福祉医療機構による病院の経営状況についてのレポートからコスト比率を紹介します。

参照:2022年度 病院の経営状況について|福祉・保健・医療情報 – WAM NET(ワムネット)
https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/240308_No.014.pdf

一般病院の場合

一般病院では、以下のように全体の約半分が人件費によって占められていて、赤字経営になっている傾向があります。

費用の種類収益・費用の比率
人件費53.5%
材料費22.6%
経費20.1%
減価償却費4.7%
医業利益率-1.0%

療養型病院の場合

療養型病院では人件費が6割近くを占めています。しかし、材料費が一般病院よりも抑えられているため、黒字経営の傾向があります。

費用の種類収益・費用の比率
人件費59.9%
材料費12.1%
経費21.6%
減価償却費4.1%
医業利益率2.3%

精神科病院の場合

精神科病院では療養型病院よりも人件費の割合が高く、6割を超えています。材料費や経費は療養型病院と同程度で、平均的には黒字経営です。ただ、経費や材料費の比率は前年に比べて上昇しており、コスト削減に取り組まなければ赤字に転じる可能性がある状況です。

費用の種類収益・費用の比率
人件費62.0%
材料費12.6%
経費20.3%
減価償却費4.5%
医業利益率0.7%

病院の人件費

病院の人件費は医師、薬剤師、看護師、医療事務など職種やキャリアによって違いがあります。しかし、人件費のコスト構造は職種によってあまり大きな違いはありません。以下のように給与・賞与として従業員が受け取るお金と、退職金積立、法定福利費が主な構成要素です。

人件費の種類コスト比率
給与・賞与81%以下
退職金積立6%以上
法定福利費13%

法定福利費は健康保険、雇用保険、厚生年金保険料、介護保険料などの社会保険料が主な内容です。病院では退職金制度が定められている場合が多いので、退職時に支給できるように積み立てておく必要があります。なお、この他にも採用や教育の費用を人件費に加味する場合もあります。医療従事者は有資格者がほとんどで採用が容易ではなく、人材紹介会社を利用して紹介を受けると採用コストはさらに大きくなります。

参照:みんなに話したくなる! はじめて学ぶ 病院経営のしくみ|川原経営総合センター・税理士法人川原経営
https://www.kawahara-group.co.jp/pr/SmartNurse_2010.11.pdf

コストの内訳

病院経営のコストは人件費が半分程度を占めますが、他のコストも無視できません。コスト削減の可能性を考慮して、他のコストに含まれる費用の内訳を紹介します。

参照:別表 勘定科目の説明(改正案)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/houkoku/14beppyou.html

①材料費

材料費には医薬品費、診療材料費、給食材料費、医療消耗器具備品費があります。医薬品費は投薬に使用する医薬品だけでなく、検査用試薬や造影剤などの費用も含まれます。診療材料は縫合糸やカテーテルなどの材料にかかった費用です。

②経費

経費には福利厚生費、旅費交通費、職員被服費、通信費、広告宣伝費、消耗品費、消耗器具備品費、水道光熱費、保険料、会議費、交際費、諸会費などのさまざまな費用が含まれます。租税公課も経費の中に含まれる項目で、登録免許税や事業税などの租税が主に該当します。固定資産税や自動車重量税、消費税などは含まれません。

通信費には郵送費だけでなく、インターネットや電話などの契約費用も含まれます。保険料は生命保険や火災保険、賠償責任保険などを一通り含む経費です。諸会費には学会などの各種団体に支払う会費が相当します。該当する項目がない場合には雑費として会計処理をします。銀行振込手数料、院内託児費用などが雑費に相当する経費です。

③委託費

委託費は業務を外部に委託したときに支払う対価としての費用です。検査委託費、給食委託費、医事委託費、保守委託費などが該当します。

④減価償却費

減価償却費は固定資産を保有しているときに取得原価を配分して毎年計上する費用です。病院では設備になる医療機器は減価償却費の対象になる固定資産の場合がほとんどです。病院の建物や附属設備、車両などについても固定資産に該当する場合には減価償却が完了するまで減価償却費を継続的に計上します。電子カルテなどのデータベースや医療システムを導入した場合にも設備として減価償却費の対象です。

ただし、取得価額が10万円未満の場合には医療機器などであっても減価償却資産になりません。

参照:No.2100 減価償却のあらまし|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm

コスト削減の効果が大きい項目

病院でコスト削減に取り組むときには効果が上がりやすい項目で対策を講じるのが効率的です。ここでは重要な3つの項目を紹介します。

材料費

材料費は一般病院ではコストの20%程度を占めます。医薬品や医療材料は医療を提供する上で必須なので、少しでも単価を下げて仕入れられるのが理想的です。同等品が他社で安く販売されているときには切り替えてコストを削減する方法があります。仕入れ価格は交渉次第で変わる可能性があるので、ずっと見直しをしていないなら仕入先と相談するのがおすすめです。複数の卸業者を利用しているときには数を絞り込むとボリュームディスカウントを得られる可能性もあります。

水道光熱費や通信費

病院の経費の中でもインフラにかかわる固定費は削減しやすく、継続的なコスト削減につながるので重要です。水道光熱費は一般病院で2.0%、療養型病院で2.4%、精神科病院で3.4%を占めています。2022年と2021年で比較すると、0.5~0.7%増加していて、電気料金などの値上げの影響を受けていることがわかります。水道、電気、ガス、電話などのコストは年々上がっているので、見直しをして削減する必要性が高い項目です。

参照:2022年度 病院の経営状況について|福祉・保健・医療情報 – WAM NET(ワムネット)
https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/240308_No.014.pdf

人件費

人件費は病院の固定費の中でも大きな割合を占めているので、削減できれば効果が大きいのは明らかです。質の高い医療を提供するには人件費は削れないと思いがちですが、業務効率を改善して生産性を向上させれば人件費は抑えられます。病院では残業が多いのが一般的です。業務の一部を委託して負荷を軽減すれば残業代の人件費を軽減できます。委託費が発生するので費用のバランスを考える必要はありますが、医療従事者の負担も減らせるので重要な項目です。

病院のコストを削減する方法

病院でコスト削減を実現するには、現状のコストを把握して課題を見つけて対処することが重要です。医療現場では業務効率化の取り組みが効果的な施策になります。今まで通りではコストが上がっていって経営が苦しくなる可能性が高いため、打開策を練ることが必要です。ここでは病院のコストを削減するためにチェックすべきポイントを紹介します。

関連リンク:医療業界の業務効率化を実現する方法6選 課題解決のメリットや成功事例をご紹介
https://sms.supership.jp/blog/dx/improving-operational-efficiency-in-the-healthcare-industry/

インフラ関連の固定費の見直し

水道光熱費などの病院のインフラにかかわる固定費は契約先や契約プランを見直してコスト削減を検討しましょう。自由化された電気・ガスは契約先の切替によって安くなる可能性があります。新参の新電力会社が登場していることに加え、各社がエネルギーコストの高騰の影響を受けて値上げをしているため、定期的に見直しをすると固定費の削減が可能です。

電話やインターネットについても同様で、料金の状況が刻々と変わっています。年に一度は見直しをして固定費の削減を目指しましょう。電話対応の効率化を図り、電話回線を減らすとコスト削減になります。オンライン予約システムを導入して電話受付を減らしたり、電話でのリマインドをSMSに切り替えたりする方法は有効です。

設備備品の適正な購入

病院で使用している設備備品は適正な価格で、必要量を購入するように仕組み作りをすることが必要です。例えば、医薬品は必要量を常に在庫しておかなければなりませんが、過剰在庫になると期限切れになって廃棄しなければなりません。使用期限が短い医薬品の場合には在庫を最小限にして廃棄がないようにした方が良いでしょう。

過剰在庫になっていると保管スペースも広くなって固定費がかかります。特に抗体医薬品などの低温での保管が必要な医薬品はフリーザーや、それを動かす電力が必要になります。材料費を削減するには在庫の適正管理をして必要数を把握することが大切です。購買システムと連動した在庫管理システムを導入して効率的に管理すると費用対効果が上がります。

委託業務の洗い出しと適正化

委託費は病院の運営上なくすことはできませんが、適正化を常に推進する管理体制を整えればコスト削減につながります。給食、清掃、警備などの専門性があまり高くない委託業務は、見直しをして委託先を選定し直すとコスト削減になる可能性があります。

委託業務の洗い出しをして、病院内部でできることは委託契約を終了することも重要です。検査委託をしていたけれど、設備が入ったので院内で実施できるといった場合もあります。逆に業務負荷が大きくて残業が多い現場で、比較的安価に委託できる業務があるなら委託した方がトータルコストを削減できます。委託費は人件費とのバランスも考慮して増やすか減らすかを検討すると適正化が可能です。

仕入れ先や委託先との交渉

交渉によるコスト削減は、医薬品や診療材料、消耗品や委託業務などのさまざまな項目で有効です。基本的にはビジネスなので「安くして欲しい」と言うだけでは料金は下げられません。しかし、他社から仕入れていた医薬品も一緒に買う、患者層が変わって消費が増えた医薬品の購入数量を増やすといった方法で交渉は可能です。

大量に消費されている医薬品や診療材料、注文量が増えている委託業務は交渉によるコスト削減効果が大きく、交渉が成立しやすいでしょう。ビジネスという意識を持って、お互いにメリットのある条件を提示することが交渉するときのポイントです。競合の仕入れ先や委託先があるなら相見積もりを取って競争させるのも効果的です。

業務効率化による人件費の削減

病院のコストの中で半分以上を占める人件費を下げるには業務効率化をする必要があります。医療の質を維持・向上させながら、人手を無駄に増やさない方策を考えましょう。解雇や減給を無計画にするのでは離職者を増やすだけです。しかし、IT導入によって無駄に時間がかかっていた業務を効率的にできるようにすれば工数が減ります。スタッフ数を減らしたり、残業時間を短縮したりすることが可能です。

病院でできる業務効率化の内容は多岐にわたっています。看護師が案内している内容をポスターで表示したり、電話で問い合わせが多い内容を病院のホームページに掲載したりするだけでも業務負担が減ります。人に負荷がかかっている業務を洗い出して効率化の施策を進めることが重要です。

病院のコスト削減・業務効率化なら

病院のコスト削減を推進するときには、業務効率化を起点にすると長期的に収益を得られる経営を続けられます。初期コストが小さくて業務負担を減らせる取り組みから始めましょう。SMSの活用は病院のコスト削減・業務効率化におすすめです。病院の予約のリマインドを電話からSMSに切り替えて自動で送信したり、申し送りをSMSでおこなったりすると効率的です。

KDDI Message Castは法人向けのSMS配信サービスで汎用性が高いシステムを提供しています。病院でのコスト削減の課題に広く活用できるので導入を検討してみましょう。

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まとめ

病院では経営継続をするためにコスト削減に取り組む必要性が高まっています。保険診療では診療報酬制度の影響で収入が管理されるため、大幅に収入を増やすことは容易ではありません。昨今の必要経費の上昇を考慮してコスト削減に取り組むことが重要です。材料費や委託費、経費のコスト削減もできますが、業務効率化によって人件費を減らすことも大切です。業務負担を減らして残業を減らすと医療従事者も働きやすくなるので積極的に取り組みましょう。