業種:医療業界

近年、製薬業界においてもDXが推進されています。製薬業界の方を対象に、製薬業界においてDXが求められている理由やDX推進の課題、導入事例などについて解説します。

DXとは?

DX(Digital Transformation)とは、情報技術の普及によってもたらされる世の中の変革のことをいいます。デジタル化によって生活がより良く変化するという考えが根底にある言葉です。経済産業省の「「DX 推進指標」とそのガイダンス」では、次のように定義されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

引用:「DX 推進指標」とそのガイダンス 令和元年 7 月 経済産業省

ビジネス分野では、DXによって以下のような変革が期待されています。

  • 業務改善
  • 製品やサービスの創出
  • 企業文化や組織風土の変革

ただし、DXは手段であり目的ではありません。そのため、業務課題の解決や付加価値の創出など、DXによって実現したい目的を明確にしておくことが重要です。

関連リンク:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?DX推進のメリットと課題も解説

製薬業界でDXが求められている理由

製薬業界におけるデジタル化は、創薬や業務の効率化などに影響を与えます。ここでは、DXが求められる主な理由について解説します。

事業コストの削減

事業コストの削減は、創薬に関する課題です。近年の日系製薬企業では、創薬のハードルが高くなり、新薬を創出し続けることや新薬に関する事業を維持し続けることが難しくなりました。このことから、創薬にかかるコストを抑えることが強く求められています。創薬のハードルが高くなった理由として、次のようなものが挙げられます。

  • 薬剤費抑制
  • 創薬手法の遅れ
  • 小規模な投資
  • 後発医薬品の推進(長期収載品の薬価引き下げによる利益の減少)

このような創薬の課題に対するDXとして、AIの導入が進んでいます。AIを用いてビッグデータを分析し、効率的な研究開発を行う(AI創薬)など、AIの活用は創薬手法の変革につながります。

参照:DXで生み出す 製薬企業非連続成長の可能性

感染症対策

新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、医療現場をはじめ、製薬業界においてもデジタル化が進みました。例えば、MR業務のデジタル化や、バーチャル治験などが挙げられます。MR業務のデジタル化は業務の効率化に、バーチャル治験は創薬に変革をもたらします。バーチャル治験に関しては、遠隔化による感染拡大防止のほかに、次のようなメリットもあります。

  • 幅広いデータを収集することで、より良い医薬品が開発される
  • 来院が難しい参加者でもオンライン診療を利用して治験に参加できる
  • ウェアラブルデバイスなどを用いて日常生活のデータを収集できる
  • 医薬品の開発期間が短縮できる
  • 治験における通院回数が減ることで、参加者の負担が軽減される
  • 遠方からでも治験に参加できるため、参加者が短期間で集まりやすく、参加者が集まりづらい希少疾患の治験にも有効
  • 何かあればオンラインですぐに相談できる
  • 開発コストの削減により、新しい医薬品の価格が安くなる

このほか、スマートフォンやパソコンなどを活用したオンライン服薬指導なども実施されています。

参照:オンライン服薬指導について |日本薬剤師会

業務や知識の属人化

業務や知識の属人化は、業務の効率化に関する課題です。製薬業界の業務や知識は、属人化しやすい傾向があります。一般的に属人化は、業務効率の悪化や業務品質の不安定化など、生産性を低下させるリスクを高めます。

例えば、医薬品の開発には長い期間を要すること、それにより資料が膨大になることから、属人化しやすくなります。このような膨大な情報をデジタル化して管理することで、業務や知識の標準化を進めるといった取り組みが行われています。

住民サービスの向上

地方自治体と製薬企業とが包括連携協定を結び、住民サービスの向上を図る動きがあります。連携が進む背景には、行政における地域包括システムの構築や健康づくり施策の推進があり、これらを実現するために専門性の高い企業への協力が求められています。

さらに地方自治体では、住民の利便性の向上や業務の効率化を実現するために、DXが推進されています。そのため、地方自治体と連携する製薬業界においてもDXが求められることになるでしょう。なお、住民サービスの向上は公益性が高い内容であり、営利目的で行われている事業ではありません。

参照:総務省|自治体DXの推進

製薬業界がDXを進めるべき分野

製薬業界がDXを進めるべき分野は、研究開発、営業活動、異業種との連携、在庫管理の4つです。

研究開発

研究開発分野におけるDXの推進が求められます。医薬品の研究開発には、資金や人材、時間など多くのコストがかかりますが、DXによってこれらのコストを削減する効果が期待できます。研究開発におけるDXの例は次のとおりです。

  • ビッグデータの活用(データサイエンスの導入)
  • 治験のリモート化
  • セキュリティの強化

参照:「治験DX!常識を覆す便利さと超高セキュリティで医薬治験業務プロセスの効率化を実現」で、第9回ものづくり日本大賞において 優秀賞 受賞のお知らせ

営業活動

営業活動(MR)分野においてもDXが求められています。MRは自社の医薬品と医療従事者とをつなぐ役割を果たしていますが、新型コロナウイルス感染症拡大により訪問自粛が要請されたことを契機に、情報提供のオンライン化が進みました。そのほか、インターネットの普及による情報収集手段の変化も、DXを進めるべき理由のひとつです。MR業務のデジタル化は、人的コストの削減や業務の効率化といった効果が期待できます。

異業種との連携

日本国内の医薬品市場の低迷が続く一方で、医療DXの推進により、異業種の参入や製薬企業との連携が進んでいます。例えば、次のような事例があります。

  • 認知機能に応じた金融取引
  • IoT技術を活用した高齢者見守りサービス
  • 患者の運動療法を支援するフィットネスクラブ

このように、さまざまな業種との協業が活発になってきています。異業種と連携することで事業の範囲が広がり、サービスの創出につなげることが可能です。

在庫管理

医薬品の在庫管理もデジタル化が行われています。手作業の場合、発注や出庫、適切な発注や在庫管理に必要なデータ分析、値引きなどによる遡及処理などに時間や労力がかかります。さらに、転記ミスや発注ミスといったヒューマンエラーが発生するリスクも高まります。DXを進めることで、一連の在庫管理にかかる負担が軽減され、作業時間を短縮することができます。また、業務の効率化によって人手不足の解消が見込めるというメリットもあります。

参照:医薬品在庫管理システム「Medicine Supervision」 – 株式会社 電算

製薬業界のDXの課題とは

製薬業界を含めたさまざまな業界でDXが推進されていますが、デジタル化には課題もあります。

患者への普及率

製薬業界特有の課題として、患者への普及率の低さが挙げられます。研究開発に関わるバーチャル治験の場合、日本における一般的な認知度が低いことが指摘されています。新型コロナウイルスの感染拡大によって関心が高まってきてはいますが、導入のハードルは依然として高いままです。

また、普及率が低い理由として、患者がオンラインでの治験に不安を感じている可能性も考えられます。マイボイスコム株式会社の調査では、オンライン診療を疑問視したり不安を感じたりしている声が複数寄せられていました。

さらにウェアラブルデバイスの利用に関しては、個人情報の漏えいやプライバシーの侵害などが不安視されることもあります。なかには、オンラインでの参加やデジタル機器の利用そのものが困難な患者もいます。製薬業界でDXを推進するには、患者や利用者にデジタル化の必要性や利便性を感じてもらえるようにする必要があるでしょう。

参照:【オンラインでの医療相談・診察に関する調査】直近1年間にオンライン診療を利用した人は約2%、利用意向者は3割強。オンラインでの健康・医療相談で相談したいと思う人は3割弱

導入コスト

製薬業界においても導入コストは課題のひとつです。導入コストは、外注と内製とに分けられます。外注では外注費用やコミュニケーションコストが、内製ではITの知識や技術が必要になります。持続可能なDXとして内製化を進める動きがありますが、内製化にあたってIT人材の確保や育成、運用コストが課題となるケースは少なくありません。このようなコストを抑える手段として、クラウドサービスの利用などが考えられます。

製薬業界へのDX導入のメリット

DXの推進は、患者や製薬企業のほか、社会における課題解決にも効果が期待されています。製薬業界でDXを進めるメリットを3つ紹介します。

患者の利便性向上

製薬業界のDXがもたらすメリットのひとつが、患者の利便性向上です。例えばITを導入したことによって、次のようなことが可能となりました。

  • 処方薬を非対面で受け取れることで、感染リスクを減らせる
  • 処方薬の自宅配送を利用することで、スムーズに受け取れる
  • 電子版お薬手帳を利用することで、服薬情報を一元的かつ継続的に管理できる
  • 電子処方箋によってより適切な投薬が受けられる

業務の効率化

DXは業務の効率化にも効果があります。例えばITの普及によって、次のような効果が期待できます。

  • 医薬品の在庫管理や事務作業にかかる手間やコストが減る
  • 患者や研究開発などに関する情報が効率的に共有できる
  • 属人化している業務を標準化できる

災害対策

DXはBCP(Business Continuity Plan:災害などの緊急事態が発生したときに、事業を継続または復旧するための計画)としても有効です。例えば、オンプレミス型の電子カルテや在庫管理システム、電子処方箋などを利用しておくことで、有事の際にもほかの端末から必要な情報を利用することができます。

電子カルテや在庫管理システムにはオンプレミス型とクラウド型とがありますが、クラウド型の場合、サーバー側が被災した場合に利用できなくなる可能性や、サイバー攻撃を受けて電子カルテが使用できなくなった事例などがあることなども理解しておく必要があるでしょう。なお、サイバー攻撃やオンプレミス型の災害対策として、オフライン環境にバックアップをとっておくことなどが挙げられます。

また、有事の際にも供給を途絶えさせないために、工場間でネットワークを構築して連携する仕組みを整備している医薬品メーカーもあります。

参照:安定供給 | 東和薬品

製薬業界におけるツールを用いたDX成功事例

AIなどのツールを活用した事例を3つ紹介します。

創薬の事例

1つ目は、AI創薬の事例です。2020年、大日本住友製薬株式会社とExscientiaはAIを活用して、化合物「DSP-1181」を創製しました。1年未満(平均所要期間の4分の1以下)という短期間で臨床試験に進んだことで大きな話題となりました。

参照:大日本住友製薬とExscientia Ltd.の共同研究 人工知能(AI)を活用して創製された新薬候補化合物のフェーズ1試験を開始 | IRニュース

研究開発の事例

2つ目は、フェノタイプスクリーニングにかかる労力や時間を削減した事例です。田辺三菱製薬株式会社は、AI技術のひとつであるディープラーニングやスパースモデリングを活用した化合物探索を実施しました。

同社はディープラーニング(大量のデータからAIが学習して、特徴を見つけ出す方法)を利用することで、専門家による判断なしに、大量の画像データを解析することに成功しました。さらに、スパースモデリング(指定された特徴をもつ結果を、AIがデータから探し出す方法)を活用することで、ディープラーニングの課題であった解析時間が大幅に短縮され、評価の根拠も説明可能となりました。

参照:データ駆動型創薬の加速化をめざし薬物スクリーニング用AI技術を構築 | 田辺三菱製薬株式会社

サービス創出の事例

3つ目は、異業種と連携しながらデジタルを駆使してサービスを創出した事例です。エーザイ株式会社は、保険産業や食品産業などさまざまな業種と提携して、エコシステムの構築を進めています。

例えば、本田技研工業株式会社、国立大学法人大分大学、一般社団法人臼杵市医師会との共同研究では、脳の健康度をチェックするデジタルツールやウェアラブルデバイスなどを活用しながら、運動能力と認知機能や体調との関係性を検証しています。この研究結果をもとに運転にかかわる認知機能の低下を検知したり、体調に合わせた運転のアドバイスを行ったりするなどのサービス創出が期待されています。

参照:高齢ドライバーの安全と健康を維持できる社会の実現に向け、認知機能や日常の体調変化と運転能力との関係性検証の共同研究契約を締結 | ニュースリリース:2022年 | エーザイ株式会社

関連リンク:DX戦略とは?立て方や推進プロセス、成功のポイントもご紹介

DX推進にはSMSの活用がおすすめ

製薬企業においてもSMSを活用することで、DXを推進することができます。例えば、治験参加者からの連絡手段、服薬の指導やフォロー、新たに判明した医薬品の副作用情報の伝達などにSMSが利用されています。手軽に情報交換ができること、電話よりも利便性が高いことなどから普及が進んでいます。

参照:薬局からのメッセージを確認 | 使い方ガイド | 「お薬手帳プラス」サポートサイト[日本調剤]

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まとめ

目的をもってDXを推進することは、より良いサービスを提供したり、業務負担を減らしたり、新たなサービスが生まれたりするといった結果につながります。製薬業界におけるDXの取り組みなどを紹介するさまざまなセミナーが開催されている一方で、デジタルに苦手意識があるという方は少なくありません。DXを支援する各種サービスなどを活用しながら、貴社に最適なDXを一歩ずつ進めてみませんか。

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